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真夜中だけの美しさ

父は夜に弱い。
見たいテレビがあると頑張って起きていても、
始まる前にバタンキュー。
そろそろ番組が始まると起こせば一度は起きるものの、
途中で眠気に負けてしまうこともしばしば。

そんな父が、どうしても早くに寝るわけにはいかなくなる時期があります。
それは7月。
大切に育てている月下美人が、花を咲かせる頃です。
月下美人が花を咲かせるのは真夜中。
それも一晩限定。
とても貴重な美しさなのです。

私は月下美人のことを詳しく知っているわけではありません。
父にしては、この時間まで起きているなんて珍しい。
どうして今日はまだ寝ないのかと尋ね、
その理由を聞いたときに初めて知りました。
月下美人は夜中にしか咲かないこと。
そしてたった一晩しか咲かないということを。

夜に弱い父を夜中まで起きていようとさせるくらいなのだから、
咲いた姿はとても見事なものなのでしょう。
そんなに美しいお花なら、私も一度お目にかかりたい。

月下美人を育て始めて、今年で三年が経ちました。
父は三年間、何度も夜中まで起きていることを試みていました。
でもこれも月下美人の罪なところなのですが、
いつ咲くのかわからないんですよね。
今夜咲くかもしれない。
明日の晩かもしれない。
もしかしたら、もう少し先まで咲かないかもしれない…。

最初は張り切っている父も1日、2日、3日と日数を重ねるごとに、
へこたれていきます。
そして毎年ガッカリした声を出すのです。

「昨夜、咲いてしまったみたいだ」と。

可哀相に。一昨日の晩は頑張っていたのにね。
昨夜に限って、どうしてそそくさと寝床に入ってしまったんだろうね。
心から気の毒に思います。

そんなわけで、父はまだ一度も真夜中の美しさに出会えていません。
次の年こそは…と、本人より私の方が強く祈ってしまいます。

鳴り響く携帯の着信

心の中で、待ってくれと叫びました。
どうか待っていてくれるように、強く願いました。
もしかしたら本当に待っていてくれるかもしれないと、期待できました。
でもその願いは叶わず、期待は外れてしまいました。

無情にもピタリとおさまります。携帯の着信。
あぁ、ガッカリ…。だけどこれでもう慌てる必要はありません。
私はゆっくりと開けます。

トイレのドアを。

電話がくるとわかっていたら、
トイレに入るのはもう少しガマンできたのに。
なんとタイミングが悪いことか。
トイレに入っているときの電話は、本当に困ります。
みんなはどう対処しているのでしょうか。

他にも、電話に出ようにも出れないシチュエーションはたくさんあります。
私に多いのは、カバンの中で行方不明にしてしまうこと。
携帯を落とすと大変なので、ついカバンの中にポイッと入れてしまうことが多々。
そうすると、他の荷物に紛れてどこにいるのかわからなくなる。

今のカバンは親切にも、
携帯電話を入れるためのポケットがついているものがほとんど。
そこに入れればいいのですが、そこにはティッシュやマイ箸などの先客がいるので、
携帯電話の入る隙はありません。

この間も、お店で買い物をしている最中に、
カバンの中で携帯が鳴り出しました。
私は慌ててカバンの中を探しました。
でも、なかなか見つからない。
とうとうピタリと鳴り止む電話。

そういえばさっき、携帯をカバンから取り出した気がする。
もしかしたらそのまま、どこかに置き忘れてきたんじゃ…!?
とヒヤリとしたのはつかの間。
たった今カバンの中から携帯の着信が聞こえたことを思い出し、
置き忘れた可能性がゼロになったことに一安心。

その直後、電話に出れなかったことを思い出して、
再び携帯電話を探し始める…。

私には、こういうことがよくあります。
よくあるのだからいい加減懲りてちょっとは考えればいいものを、
性懲りもなく繰り返すのだから困った(バカな)奴です。